カルメン

 何回目だろう、カルメン。

 5回か6回か、それ以上だろうか?・・舞台で観た日本人のカルメンは40年以上前の伊原直子(アルト)かもしれない。レコードではマリア・カラスにアンナ・モッフォに夢中になっていたころの青春時代を思い出す。カラヤン指揮によるオペラ映画もあった。ボクにとっては愛着のある永遠の名曲である。

 そんな「カルメン」の舞台を久々に観る。日曜の午後、妻を家に置いて(決して不仲でも趣味が合わないわけでもない。年に2回はコンサートかオペラに二人で出かけている。)、ひとり車で出かける。日曜は実家に老母を訪ね相手をして、少しでも兄夫婦の手助けをするのがボクの日課になっているのだが…今日は断りを入れて、ここ初台のオペラパレスへと足を運んだのである。

 そして、一幕の休憩時間にこれを記す…なんとも形容しがたいカルメンの声質だろうか。透明に近いトマトソースのような、ビオラの音色のように美しく自然に発せられる声(私見)。これに妖艶な演技が重なり、新しいカルメンを感じることができた。イタリア生まれのジンジャー・コスタ=ジャクソンというメゾ。かくごして臨んだのだがー参った。

 そして二幕は、カルメンの愛くるしい魅力が…これ程までに人間を表現した音楽があっただろうかを再認識させる。人間味あふれるカルメンの目の輝きから指先の所作、細い体をくねらせてドン・ホセを振って、エスカミーリョを誘惑してくる…強くて壊れそうなカルメン。

 そこには最後までくぎ付けの、青春時代のボクがいた。

 何といっても音楽が素晴らしい「カルメン」である。

2018年12月02日